大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和28(あ)4678 決定

主 文

本件上告を棄却する。

理 由

弁護人樫田忠美、同小川益太郎の上告趣意第一点について。

原判決が「原判示窃盗の事実は原判決挙示の各証拠を綜合してこれを認め得られ

ないものではない」といつて第一審判決に事実誤認のないことを判示したことは原

判文上明白であるが、その趣旨は、右各証拠を綜合して右窃盗の事実を真実と認め

得るとの意味、換言すれば右窃盗の事実の真実なることについて確信を持ち得ると

いう意味に外ならない。そして原判決によれば、原審は第一審判決を量刑過重とし

て破棄すべきものとし改めて自ら聴取した原審公判の証人三名の供述と第一審公判

の証人等の供述等の証拠により原判示窃盗の事実(第一審判決認定の事実に比して

日時、畳糸の表示方において些少の相違はあるが要するに同一の窃盗の犯行)は証

明十分であると判示しているのであるから、原判決の趣旨によれば原審裁判所は右

窃盗の犯行の真実なることについて確信を持つことを示したものであつて、決して

その真実なることについて裁判所が疑問を持つた趣旨と解すべきではない。従つて

この点を捉えて原判決は裁判官が確信を持たず良心に従わないでした憲法七六条三

項に違反するものであるということはできない。憲法の右条項にいわゆる裁判官が

良心に従うとは裁判官が有形無形の外部の圧迫乃至誘惑に屈しないで自己内心の良

識と道徳感に従う意味である(昭和二二年(れ)三三七号同二三年一一月一七日大

法廷判決参照)が、記録を精査しても原審裁判官が憲法の右条項に違反したという

ようなことは全く認められない。所論は採用できない。

同第二点について。

所論は、原判決挙示の証拠によれば、被告人はその所属組合の判示倉庫から他の

畳糸と識別し得べき特徴ある判示畳糸を窃取した後、一年有半を経過してこれを右

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組合に納入した事実を肯認しなければならないことになるが、被告人がこんなこと

をすれば直ちに犯人であることの嫌疑を受けるのは必定であるから常識ある人はこ

んなことをしないものだと推測しなければならない道理である、従つて被告人の窃

取事実を認定するには挙示の証拠を真実と認むべき実験則上の事情の存することを

必要とすること大審院の判例とするところであるのに、本件においてはかような事

情の証明がない、従つて原判決は実験則に反し虚無の証拠によつて事実を認定した

違法と判例違反があるというに帰する。しかし、原判決挙示の原審公判でのAの証

言によつて右歳月経過の途中で右農業会の改組や幹部の更迭があつた事情が示され

ているからこれと歳月の経過その他の事情から被告人がまさか新任幹部に気ずかれ

まいと思い何くわぬ顔で供出することなどあり得ないことではない。従つて右挙示

の証拠だけで判示事実を認めても所論のように必ず実験則に反するとはいえない。

所論の大審院判決は事案を異にし本件に適切でない。原判決には所論のような実験

則違反又は判例違反はなく論旨は採用することができない。

同第三点について。

所論は、本件は窃盗として起訴されたものであるが、所論引用の各証言によれば

賍物寄蔵と認定すべきであり、かく認定することは所論の大審院判例の趣旨からも

許されるところであると主張するものであるが、前段の主張は事実誤認の主張であ

り、従つてこの事実誤認を前提とする後段の主張は前提を欠き所論の判例違反ある

場合に当らない。論旨は理由がない。

同第四点について。

所論は結局事実誤認の主張に過ぎないから上告適法の理由とならない。

同第五点について。

所論は量刑不当の主張であつて上告適法の理由とならない。

以上説示の通り上告趣意はすべて刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。また記

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録を調べても同法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同法四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のと

おり決定する。

昭和三〇年一〇月一八日

最高裁判所第三小法廷

裁判長裁判官 垂 水 克 己

裁判官 島 保

裁判官 河 村 叉 介

裁判官 小 林 俊 三

裁判官 本 村 善 太 郎

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